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水晶の歴史

 水晶の透明度の高さは固体状の水、つまり、氷を連想させます。また、水晶の採れる場所は山岳地帯であり、水源の近くです。水晶は氷の一種であるという考えは、多くの民族が信じていました。『クリスタル』(水晶の英名)という言葉はギリシャ語の Kryos (クリオス。氷のように冷たいの意)に由来します。ローマ時代の博物学者プリニウスは「水晶の正体は氷である」と述べています。アラスカのエスキモーは水晶は氷の中心部が固くなったものであると考えていました。我が国でも、江戸時代の人々は、水の精、水精と呼んでいました。『水晶』、『水精』、『石英』。これらの言葉は中国で生まれて、日本に伝えられました。水晶の「晶」という文字は3つの「日」から構成されており、光り輝く様子を表した文字です。
 ここでは、『水晶』という言葉と『クリスタル』という言葉の歴史を地域別に紹介しましょう。

「中国での歴史」
 水晶を紹介した最古の書籍は、世界初の薬辞典『神農本草経』(刊行は1〜2世紀頃)であると考えられています。この本の「白石英」に関するページで「指ぐらいの太さで、削ったような六角柱の麺を持っており、白く透き通っている」と記載されている。この説明文は水晶(今日の我々の定義)に対するものですが、『石英』と呼ばれています。実は、この時代、『水晶』という言葉(『水精』も)は存在していませんでした。『水晶』という言葉が最初に登場した書籍は、明時代に李時珍が執筆した『本草綱目』(1596年頃に創刊)だと言われています。この本の中で、「水晶は水精の別名、同意語である」とだけ紹介されています。『水精』のページには「白く透き通った塊状のもの」と書かれており、今の日本では石英に対する説明が与えられています。
 現在、国内では、先の尖った六角柱状の結晶を水晶と呼び、塊状のものを石英と呼んでいますが、オリジナルは逆です。この間違いは、江戸時代の有名な学者のミスで生じました。

「日本での歴史」
 我が国で最初に水晶に関する記述が掲載された書物は薬の本だと言われています。平安時代に深根輔仁が書いた『本草和名』の中で紫石英が紹介されています。紫色は高貴な色とされていたため、薬草と混ぜて、不老長寿の薬として微量の紫石英が服用されていたそうです。血行が良くなり、冷え性に効いたと伝わっています。ただ、実際は、紫石英ではなく薬草の効果だと考えられます。石英の尖った部分によって胃や腸を傷つける可能性があるので、マネをしないでください。
 江戸時代の中期(1709年)に『大和本草』という薬辞典が出ました。著者の貝原益軒は高名な草学者、儒学者です。この辞典で、『水晶』と『石英』が取り違えられて記載されています。刊行時、貝原益軒は80歳でした。単純なミスだと思われます。この間違いには、有名な蘭学者の平賀源内も著書『物類品隲』(1763年)の中で指摘しています。また、元祖石マニアの木内石亭も『雲根志』(1773年)の佐渡島の紫水晶を紹介する節で言及しています。しかし、水晶と石英の意味は取り違えられた方(現在の定義)が学者の間で広まってしまい、一般化。そして、現在に至っています。なお、『水晶』という言葉が一般的になったのは明治時代です。江戸時代では『水精』の方が広く使われていました。オリジナルの名前に戻すべきですが、これだけ一般化してしまうと修正するのは困難です。

「欧州での歴史」
 欧州では、透明で先の尖った六角柱状のもの(つまり、水晶)はクリスタルと呼ばれています。『クリスタル』という言葉はギリシャ時代から使われていました。テオフラストス(アリストテレスの後継者)が著した世界最古の鉱物辞典『石について』には、クリスタルが掲載されています。やがて、クリスタルは水晶だけではなく、透明で美しい形状の鉱物に対しても使われるようになり、結晶という概念が誕生しました。現在、クリスタルという言葉には水晶という意味の他に、クリスタルガラスとか、結晶という意味も存在します。水晶という意味を強調させるために、英語では『ロック・クリスタル』(Rock Crystal)という別称もよく使われています。水晶が岩の中で見つかることが多いことに因んだ呼び名です。ドイツでは、山で見つかることに由来して、Berg-Crystal (山のクリスタルの意)と呼ばれています。
 一方、『クオーツ』という言葉は16世紀に生まれたと言われていますが、一般化したのは18世紀です。元々は、有用な金属鉱脈を横切っている無用な石英脈を意味するドイツ語でした。鉱石として役に立たないばかりか、採掘の障害となるため、、クオーツは鉱山夫にとって邪魔な存在でした。現在、塊状の石英はクオーツと呼ばれています。しかし、日本語の石英とは異なる使われ方もします。例えば、煙水晶は先の尖った六角柱状の形をしていますが、英語ではスモーキー・クオーツ(Smoky Quartz)と言います。日本語では水晶の一種と取り扱うのですが、英語では石英の一種として取り扱われています。類似例は他にも存在し、紫水晶の英名はアメシストであり、黄水晶の英名はシトリンです。この様に、欧州では透明で先の尖った六角柱状のもののみをクリスタルと呼んでいます。色彩にこだわりがあるようです。これに対し、日本では形状にこだわりを感じます。国内の鉱山夫の間では、水晶のことを六方石、あるいは、六方と呼ばれていました。この慣習が影響しているのかもしれません。

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